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ひそかブログ

アニメでするリアルの話、リアルでするアニメの話。そういうのが好きです。

無彩限のファントム・ワールド 4話 - 心地よかったラスト3分半のカメラワークについてその演出意図を考えてみた

アニメ感想・アニメ関連の話

無彩限のファントム・ワールド 4話 感想 - トラックバック トラックアップ 左右上下パン

「無彩限のファントム・ワールド」第4話の「模造家族」を再視聴したところ、カメラワークにとても魅了されました。時間は我が家のレコーダーで19:20から22:53までの約3分半。カメラはゆっくりT.U(T.B)したりゆっくりPANしたりピタリと止まったり…… 

ストーリーの盛り上がりをさりげなくサポートする面白いカメラワークだったので、それらについて具体的に書いてみたいと思います。当然ながら思いっきりネタバレを含みます。



本題に入る前に、補足の内容を3つほど。

ストーリー概要、キャスト、用語について

1.ストーリー概要

「無彩限のファントム・ワールド」を一度も見たことよ、という方でも記事の内容が分かるよう、第4話のストーリー概要を簡単に書いてみます。


― 玲奈(れいな、cv:早見沙織)は、家族に悩みを抱えた女の子。両親はとても厳しく、それに嫌気がさした姉は家出をしたままの状態。そんな玲奈に、あるとき絵に書いたような理想の家族を彼女に味わわせてくれるファントム(幽霊や妖怪の類い)の両親が現れます。玲奈はファントムの両親と一緒にこの世のものではない空間で楽しい家族の時間を過ごしますが、終盤になり夢から覚めた玲奈のもとをファントム両親は去らなければならなくなり、彼女は両親について行くか否かの決断を迫られます。


第4話は大体こんなストーリーかと思います。

2. キャスト

記事で用いるおもなキャラの名前と配役です。

玲奈:早見沙織
父:立木文彦
母:久川綾
晴彦:下野紘
舞:上坂すみれ

父と母ってのはもちろん現実の親ではなく、ファントムの親のことです。

3.用語

記事で用いるおもな用語の意味を先に書いておきます。

PAN(パン):カメラを上下左右にふること
T.U(トラックアップ)/T.B(トラックバック):ぶっちゃけT.Uはカメラのズームと同じような効果*1のことで、T.Bはその逆。厳密にはカメラ自体が被写体に近づいたり(T.U)、遠ざかったり(T.B)する動きのことですが、アニメではほとんどズームって言葉は使われないです。


なめ:画面の手前に、キャラまたは物の一部を入れ込むこと。手前でも全体を入れれば、それは「なめ」ではないです。


じゃあ本題へ。
終盤の約3分半のシーンを、4つに分けて進めていきます。

シーン1. T.Uの4連発

カメラワークが特に動くようになるのは、時間でいうと我が家のレコーダーのカウンターが19:20を指したあたりからになります。具体的には晴彦の助力により、トイレで玲奈が正気に戻った後のシーンから。玲奈とファントム両親の別れを描くラストシーンのスタートがT.U(トラックアップ)によってスタートする、って感じじゃないかと。カメラは玲奈&晴彦を固定(FIX)したカットを挟みつつ、玲奈両親の家をT.Uで映すカットが4つ連続します。


  1. 玲奈&晴彦を両脇になめつつ、2人の立ち位置から写した家方向に向かいゆっくりT.U
    f:id:hisoka02:20160209214656j:plain
  2. 舞先輩&両親のバストショットをT.U
    f:id:hisoka02:20160209214723j:plain
  3. 舞の横向き笑顔のアップをT.U
    f:id:hisoka02:20160209214803j:plain
  4. 玲奈&晴彦の背後から家の全景を映しつつT.U
    f:id:hisoka02:20160209214813j:plain


ここでのT.U(カメラが寄る動き)連発の意図は何でしょうね。
これは、ファントムによる魅力的で非現実な家族に、玲奈の気持ちが吸い寄せられていることをイメージしたT.Uかなと思います。玲奈の気持ちの天秤が、この段階ではファントムの家の方に明らかに傾いている。そんなイメージとしてのT.Uかなと。


シーン2. 左右逆方向へのPAN

続いて背景が切り替わったあとの場面へ。おもな両親によるセリフを書いてみます。

父「玲奈、お前が目を覚ました以上、私たちはもう行かなければならない。もともと君の夢に依存した世界だったからね」
母「でも、あなたさえ良ければ私たちと一緒に来てくれていいのよ」


― 別れの時が近い。
カメラの方も、それを暗示したPANになっていました。
両親を映すときは左PANで、玲奈を映すときは右PANで。ここではPANの方向が、
←両親  玲奈→
と逆方向になっています。この場面の4カットをそれぞれ具体的に書くと。


  • 1-1.両親のフルショットをじわっと左PAN(カメラ左へ)
    f:id:hisoka02:20160209215051j:plain
  • 1-2.もう一回。両親バストショットを左PAN
    f:id:hisoka02:20160209215106j:plain
  • 2-1.玲奈のバストショットをじわっと右PAN
    f:id:hisoka02:20160209215146j:plain
  • 2-2.もう一回。玲奈アップを右PAN
    f:id:hisoka02:20160209215217j:plain


上記4枚画像のカメラワークは、逆方向へのダブルPANが2回、とでも表現すればいいのかなぁ。
両親と玲奈を左右逆方向へのPANで描いた意図は、このまま時間が進むと玲奈は両親と離れ離れですよ、ファントムの両親について行くか否か決断する時ですよ、ぐらいのイメージかなと思います。

シーン3. ピタリと止まるT.B

両親と玲奈が別れそうになるイメージを描いたカメラワークのあと。
次は、晴彦が玲奈と別れそうになるイメージを描いたカメラワークへと移行しました。それを今度はT.B(トラックバック)を用いて表現。
おもな状況とセリフです。


(去りゆく両親のあとをゆっくり追いかけはじめる玲奈。それを晴彦が呼び止めようとする)
玲奈「お父さん、お母さん……」
晴彦「行っちゃダメだ! 俺の母さんも、父さんとうまくいかなくて家を出たんだ! 君の姉さんみたいに!」
(略) 
「君の姉さんだって、帰って来たとき君がいなかったら……
玲奈ちゃんがいなかったらきっと淋しいんじゃないのか?!」

f:id:hisoka02:20160209231121j:plain


この場面。
セリフとカメラワークの関連性で特に目を引かれたのが、晴彦が二度目に「姉さん」を口にした瞬間でした。一度目の「姉さん」でまずは歩みを止めた玲奈。しかし、画面の方は玲奈が足を止めたあともT.Bを続けます。たとえ足が止まっても徐々に離れてゆく玲奈と晴彦の距離。そしてそのT.Bがピタリと停止するのが、晴彦が二度目の「姉さん」を口にした瞬間になります。この場面の画像を3枚ほど。

  1. 玲奈なめ。晴彦の周辺がじわっとT.B
    f:id:hisoka02:20160209220229j:plain
  2. 晴彦背後の左右両岩なめ。両親&玲奈がT.B
    f:id:hisoka02:20160209220243j:plain
  3. 晴彦なめ。両親&玲奈がT.B
    f:id:hisoka02:20160209220312j:plain

1.から3.は、正確には「レイヤーT.B」と書くべきものになると思います。
意味は画面全体ではなく、特定のレイヤー(層とかセルの意味)にT.Bをかけること。この記事ではレイヤーT.BもひっくるめてまとめてT.Bと書いています。


3(晴彦なめ。両親&玲奈がT.B)の場面の話です。
晴彦が二度目の「姉さん」を口にし終えた瞬間、それまでじわっと動き続けていたT.Bがピタリとストップします。地味な描写ながら、個人的にはここのピタリと止まるT.Bに感動を覚えました。T.Bは玲奈の心理の動きを表現したものでしょう。T.Bによって、ファントム両親について行きたい玲奈の気持ちと、晴彦から見れば玲奈が遠ざかってゆくイメージを表現したもの。

それが晴彦による強い呼びかけ、二度の「姉さん」によって玲奈の気持ちが変化を迎えます。いわば玲奈が現実に向き始めた瞬間というのか。そんな玲奈の気持ちの変化を、ピタリと止まるT.Bによって表現していたんじゃないかと思います。

カメラワークってのは何も動かすことだけではなくて……
継続させてきた動きを止める ―
それもカメラワークのひとつだったんですね。


シーン4. 上PAN & 星空のT.B

最後は両親との別れのシーンへ。
ここでは固定したカットをはさみつつ、印象的な上方向へのPANが入り、最後は星空のT.Bでしめられました。状況とセリフです。


(玲奈、晴彦の方向へと一歩バック)
父「いいんだ。玲奈がそう決めたならそれでいい」
母「短い間だったけど、あなたと家族でいられて、楽しかったわ」

ううむ。立木さん(父)の声が何ともたまらん……


ここで取り上げるカットは4つになります。

  1. 母のセリフと同時にじわっと上PAN開始
    f:id:hisoka02:20160209220911j:plain
  2. 玲奈バストショットを上PAN
    f:id:hisoka02:20160209221018j:plain
  3. 消えゆく両親を上PAN
    f:id:hisoka02:20160209221035j:plain
  4. 最後に場面転換後。玲奈背後から上空へのアオリで星空がT.B
    f:id:hisoka02:20160209221114j:plain


先に4.から。ここは非常に悩ましくて……
カメラワークや撮影がどうなっているのか、私にはハッキリ分からないです。繰り返し視聴して頭を悩ませました。ふたつの動きを重ねているような感じでしょうか。作業の流れとしては、

1. 星空をじわっとT.Bさせつつ撮影する。
2. 玲奈を上PAN&T.Uで撮影する。
3. 1.と2.を重ねて撮影する。

よくわからないですけど、こんな感じかなぁと思いました。変化を比較してならべるとこんな感じ↓
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玲奈にはちょっとだけ上PANしつつT.U。同時に星空自体もT.B(遠ざかる)。そのように見えます。


私には難しいカメラワークとは逆に、演出の意図の方は分かりやすいですね。
星にイメージさせた両親が、玲奈からはるか彼方へ、手の届かない所へと遠ざかってゆくイメージじゃないかと。
そこにさきほどの上PANの続きとT.Uをちょっとだけ入れて、両親に思いを馳せる玲奈の気持ちを表現したかったのかもしれません。


私が感動を覚えたのは1.のシーンでした。
母の上PANがスタートする場面。動きはゆっくりで上PANする範囲はほんの少しです。変化を比較してならべるとこれぐらいの範囲 ↓

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このシーンまでの「無彩限のファントム・ワールド」第4話は、極力上方向へのPANを控えていたように思います。というかこの4話は、全体を通して要所以外ではPANやT.U(T.B)の使用をなるべく控えているように感じます。それがラストシーンに入るとともに……
一気に左右PANとT.U(T.B)を使いはじめ、最後の最後に温存していた上PANへ -
そういった流れを感じて、1.でゆっくりと上PANが始まった瞬間に感動を覚えました。

ここでの上PANのイメージは、「今生(こんじょう)の別れ」の表現でしょうか。
今後二度と会うことのない人との別れ。

よく目にする演出ですよね。
人物が光を放ち半透明になり、煙や水蒸気のように上空へと立ちのぼりながら消えていき、カメラはそれを追いかける…… 
この場面はそんなイメージ表現としての上PAN使用じゃないかと思います。



ここまでのまとめ

では繰り返しになりますが、ここまでに取り上げた4シーンのカメラワークとそれらによって私が感じた演出意図を手短かにおさらいしてみます。

1.ファントムの家に向けてのT.U
玲奈の気持ちが、ファントムの家と両親に吸い寄せられていることをイメージしたT.U。
2. 左右逆方向へのPAN
玲奈と両親の別れが近づいたことをイメージした左右逆方向へのPAN。
3.ピタリと止まるT.B
ファントム両親について行きたい玲奈の気持ちが止まった瞬間。
4.上PAN&星空のT.B
今生の別れ、両親が手の届かない所へ。


あくまで私の感じたイメージですが、制作サイドはこれらのような演出意図をカメラワークに込めていたのかなと思いました。ゆっくりPANしたりゆっくりT.B(T.U)したりピタリと止まったり。目立たせ過ぎない、さりげないカメラワークですね。まるでバックに静かなクラシック音楽でも流れているかのよう…… ストーリーの盛り上がりを陰でサポートする心地よいカメラワークだったと思います。

約3分半ぐらいのシーンですので、良かったらご覧になってみてください。


記事を書くキッカケと最後に

この記事の元々のキッカケは、「ブブキ・ブランキ」第4話の再視聴をしたことでした。
ブブキの5話に備えて4話の復習をしとこうかなと。そしていざ再視聴してみると、ブブキブランキの第4話って、非常にカメラが動いているんですよね。半分以上のカット、おそらく2/3ぐらいのカットで何かしらカメラを動かしています。へええ、こんなにカメラを動かしているものなのか……

じゃあ、他のアニメではどうなんだろう? 
そう思ってまずはファントムワールドの5話を再視聴してみました。こちらも、ちょこちょこ動いています。半分ぐらいかな? ちょっとした微調整とでもいうのか、ちょっとしたPAN、T.U(T.B)、ピン送り(ピンを奥や手前に送ること)などが多用されていました。

じゃあじゃあ……
ファントムワールドの4話はどうだ? 5話と4話を比較してみようじゃないか! そう思って再視聴したら…… 驚きました。序盤はほとんどカメラが動かない! なにこれ?ってぐらいにカメラが固定されています。てことは、もしやバスの登場場面で動くのか? はい、その通りでした。バス初登場のシーンで、一瞬ですがさまざまなカメラワークが取り入れられています。


そんな感じでメモを取りつつ視聴していたら…… 
19分20秒以降、目が釘付けになりました。
あとはもう上に書いた通りです。


私はほとんど4話のラストしか取り上げてないですけど、「無彩限のファントム・ワールド」第4話のカメラワークは、1話全体を通してかなり意図的な使い方をされています。おそらく、動かす場面を生かすために他の場面、特に序盤の学校のシーンでなるべく動かさないように意図しているのでしょう。第4話でおもにカメラが動くのは、バス初登場時、トイレのシーン、ラストシーン&学校のラストシーン。だいたいそんな感じだと思います。

普段はカメラワークを意識して視聴することってほとんど無いのですが、最初から意識して視聴してみれば、アニメでは実にさまざまなカメラワークを駆使して物語をサポートしていたんですね。

へええ知らなかったなぁ……
カメラワークには色んな演出意図を込めていたのね。
キャラの心情も表現していたのか……

そんな初心者感丸出しの感動を覚えたファントム・ワールド4話のカメラワークでした。



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*1:実写におけるT.Uとズームアップの違いについて。
あいおい@aioi_seven さんから頂いたツイートを引用しながら、実写におけるT.Uとズームアップの違いについて補足します。

(実写での)トラックアップは、カメラ本体が被写体に接近する事を指し、それによりカメラ、被写体1(人物)、被写体2(背景)それぞれの位置関係が変化します。そのため画面の中のパースが変化し、例えば圧迫感や臨場感を与えるという演出効果があります。

一方、カメラの機能でズームアップする場合は、カメラの位置が変化する事なく画面の中で被写体1、2を "平面的に写した一枚絵" が拡大されるという現象が起きるため、パースの変化は生じません。

アニメの場合、実際の効果がズームアップ/ズームバックであることとは別に、実写からきたトラックアップ(トラックバック)の用語がそのまま業界統一用語として定着した、という形ですね。あいおいさん、ありがとうございました。